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2009.07.17 (Fri)

「タイムカプセル」 後編

前回から続いて小説「タイムカプセル」の投稿です。
一本の小説を前後編に分けているわけですから、流石にひとつ前の前編を読んでいただかないと話が訳わからんと思います。ぜひ、「タイムカプセル」前編からお楽しみになってください。

批評・感想お待ちしております。コメントの方から、ぜひご意見いただけたらと思います! 厳しいものでも構いませんので。ただし、次の記事で言い訳はしますよ←

では、後編を追記からお楽しみくださいませ。


【More・・・】




== タイムカプセル ~後編 ==


 回想シーン。
 それは、三年前の夏休み、始まって最初の平日から二泊三日で行なわれた合宿でのことだ。
 二泊の内二回目の宿泊、すなわちお泊り最終日の夜、俺達Cチームは宿舎であてがわれた一室で人生に一度しかない(二回あっても困るが)中二の合宿を満喫していた。練習を終了してから夕食と入浴を済ませて夜十時、トランプとUNOに始まった夜の宴はその後、「だ」と「つ」と「い」がある野球拳で更なる盛り上がりを見せ、じゃんけん激弱のミキの代わりに何故か俺が身包みはがされることになり、あまりに盛り上がりすぎて顧問の鬼監督に怒られて。懲りたところで新たに始めた怪談大会では、メグが用意してきた怪談に震え上がった。ああ、怖かったさ。もう二度と聞きたくなんかないってくらいにな。
 その後はお約束、まぁ、恋バナなんぞに花を咲かせて――
 夜も一時を回った頃。
「明日のことだ」
 唐突ともいえるタイミングで、ムツが言った。
「予定通り、持ってきたこいつを埋めるぞ。そうだな、練習の終わりが三時すぎくらいだから、その後にするか……中、確認しとけよ? 入れるもの入れるなら今の内に入れておけ!」
「全部ちゃんと入れてあるでしょってばー」
 馬鹿? とでも言いたそうに笑いながらため息をついて、ミキがそんなことを言う。言葉と共に俺達の目の前に差し出されたのは、中に入っているかさばる何物かで膨らんだ、某スポーツ用品店の袋だ。
「入れてないのはあと、これだけのはず」
「まだ入れられねーの?」
「うん。両方、まだ明日使うからね」
「明日か……」
 ムツとミキの会話に、メグが参加する。
「二回目の夏合宿も何だかんだであっという間だったよね。何か、今年は遊んでばっかりだったような気がするなぁ」
「ば、馬鹿! 遊んでねぇだろ! アレは練習だ練習!」
 昼間の、ムツが練習と言って始めた円陣パス、途中からアタックをわざと身体を狙って打ちまくり、最終的にドッジボールのような有様となった一連を言ってだろう、妙に目元だけを笑わせて言ったメグに、ムツが口から泡を飛ばす。そうか、やっぱり遊びだったのか。そりゃあ顧問に怒られても文句は言えないな。
「明日! 明日はちゃんとやろう!」
「ムツの口からその一言を聞けるのを待ってたんだよー」
 言ってミキが、手に持っていた某スポーツ用品店の袋の口に手をかける。
「何せ俺達、うちのバレー部の中じゃ一番落ち零れてるからねー。ここじゃレギュラーにならないと悲惨なだけだし、一年に顔向けできないんじゃ嫌だし、やっぱりそれなりに練習はしないとさぁ」
「とりあえず、やらなきゃいけないのはBクイックじゃないかな。全体的に」
 ミキに相槌を打ったのはメグだ。
「僕とのも微妙だけど、やっぱり主戦力のユキとがね……ムツのトスとユキのアタックが、微妙にずれてる感じがするんだよ。最高のタイミングでは打てていない感じ? 多分、距離感をユキが掴みにくいからだと思うんだけどさ」
「悪かったな、下手くそなトスで!」
「……距離感掴むの下手ですいませんね」
「もー。二人ともそんなことでヘソ曲げんなよ。子供だなぁ」
 手を突っ込んでいた某スポーツ用品店の袋から、口をへの字に曲げながらミキが取り出したのは――
「じゃあ、明日の練習はそれね。どっちもこの三日間の思い出として埋めるんだから、やっぱりそれなりのものにするよ! そのためにも明日は練習! 今の時点じゃ遊んだ思い出しかつまってないよ、これ――」
 言って、ミキが差し出したのは――

 電車内での会話によると、三人はこの三年間、俺が転校してからも変わらず同じ練習チームでわいわいとやっていたらしい。
「でさー、今ミキはマネージャーもしながら俺達の練習チームの補助アタッカーもやってる訳よ、これが!」
「……ミキが?」
「だって、我らがエースアタッカーが転校しちゃったからね。実はあの後結構大変だったんだよ? 僕が代わりにエースに転向して、ミキを練習中だけの補助にして」
「最初の内は練習、大変だったよねー。流石のメグも、アタックだけならユキには勝てないもん」
 はい、この身長では信じてもらえないかも知れないけれど、俺はこのチームではエースアタッカーを務めていた。メグに引っ張られて部の仮入部に参加し、そこでアタックの打ち方を教わって、実践していたところを先輩達に目をつけられたのがことの始まりだ。要は、まぁ、上手かったらしいが……残念なことにその後は出た芽が伸びず、中二の十一月に公立中学へ転校するまで、俺は公式試合というものに一度も出ずに終わってしまった。どうせ俺はその程度さ。
「あの頃こそは、ユキ嬢の偉大さを思い知った――って感じ?」
 ムツはそんなことをやたらハンサムなその顔に笑みを浮かべながら言ってくるが、どうだかな。何か三人でも楽しくやってたっぽいくせに。
「ま、そりゃ楽しいよー」
 つり革にぶら下がってメグに叩かれているムツを横目で見ながら、ミキがくすりと笑みをこぼす。
「ムツは相変わらずトスのタイミングが変だしね! それにいちいちメグとか突っ込み入れながら練習するから、馬鹿みたいだよ、マジで。昨日までの合宿でもさぁ、」
「は?」
 昨日まで? 合宿?
「お前等、昨日まで合宿だった訳?」
「あん? あれ、ユキ、言ってなかったか? 俺達昨日まで合宿だよ。ははは、帰ってきてすぐ合宿所へリターン、みたいな。俺達伝書鳩かよってな。首前後に動かすぞ!」
 つり革から手を離したムツが、メグの鳩尾に軽く拳を入れながら笑って言うが、正直笑いごとじゃない。
「何やってるんだよ……」
 あの合宿、帰ってきてたった一晩で疲労から完全回復するのは至難の技だぞ。まして出かけるなんて、そりゃあもう自殺行為としか思えない。今目の前で三人が公の視線を気にもとめずぎゃいぎゃい騒いでいるのは、はっきり言って異常だ。
「だってさ、元々合宿の時に掘り出す予定だったんだし。なら疲れてるんでも、合宿の翌日とか合宿そのものに近い日の方がいいかなーって思った訳」
「とか言いながら、ムツ、ユキに電話する前は『合宿の後改めて行くのは疲れるし面倒くさい。ほっといて合宿の時三人で掘っちまおう』とか言ってたんだぜ?」
「馬っ鹿、アレはだな――」
「それにムツ、この前だってさぁ、ユキのこと――」
「言うな馬鹿ミキ! アレは言うな! 言ったら殺す!」
「あはは。あのね、ユキ、実はこの前さ――」
「メグぅううぅぅぅうぅぅっ!!」
 ……。
 何というか。
 三人はあまりにも変わっていなくて。
 でも、何か、昔のままではないような気が――する。
 少し、胸が締め付けられるような思いがした。
 今年、去年、一昨年。
 俺はこいつらとは一緒に合宿に行っていない。
 そこであったことは、俺が知らないこと。
 合宿だけじゃない、三年間。
 俺が知らない間にも、三人は一緒だった訳で。
 俺も、三人も、同じように時間は流れていた訳で。
「――ってことがあった訳だよ」
「……アホか」
 突っ込みを入れる声にも、何故か力が入らなかった。
 俺の知らないこいつらが、ここにはいる。
 そう思うと、何か、やたらとため息をつきたくなる。
「くっそー、何でそんなことユキに言うんだよー。ほじくり返すなよー!」
「あんなこと、忘れろっていう方が無理だってばさ」
「あ、折角だからあの話もする? 今年の四月、新入生が入ってきた時さ、ムツ――」
「だーっ! 言うなー!」
 俺の知らないことを和気藹々と話す俺の知らない三人は、

 少し、遠くに感じられた。

「……ユキ? どうかした?」
 ふと気がつくと、メグの整った優等生面がすぐ目の前にあった。その表情から考えるに俺のことを心配しているらしい。何というか俺、よっぽど深刻そうな顔をしてたんだろうな。
「本当、すっげー深刻そうな顔してたよ。あ……俺達何か悪いこと言ったかな?」
「別に」
 続いて顔を覗き込んできたミキに、俺は首を横に振ることで答えた。
 ただし、続けてこんな本音は、さりげなく伝えてみることにする。
「ただ、何かみんな変わったかな……とかさ」

 * * *

 俺達が夏を過ごしてきた合宿所は、電車を降りてバスに乗り継ぎ、終点近くで降りて更にそこから三十分歩いた、川沿いのえらい山の中にある。何が好きでこんな山の中、都会からは行くのも帰るもの面倒くさいところに合宿所なんか作ったんだ我が学校法人よ、と俺は初めての合宿の時に思ったものだが、しかしそんなここを合宿先とするのは一度来てみれば納得のことで、学校の体育館よりも何千何万倍と涼しく感じられる山間の体育館、それに隣接した宿舎、そうした合宿所を抱える広大な敷地――山あり、川あり、綺麗な空気あり、全てが全てくそ暑い中の夏合宿に適する、素晴らしい場所なのだった。
 昼過ぎに宿舎を訪ね、「タイムカプセルを云々」とシャベル片手のムツが事情を説明すると、昔から気前のいい管理人のおっちゃんは、お馬鹿な男子校生が勝手にモノを埋めたことを咎めもせず、快く発掘作業を許可してくれた。のみならず倉庫の機材を発掘に使っていいっていうんだから、いやはやおっちゃん、どこまで気前がいいんでしょうね。
「いやー、願ったり叶ったりってのはこういうことを言うんだろうな! 流石合宿所のおっちゃん。ははは、機材もがっつり貸してくれるし! うん、渡りに渡り鳥だ!」
 シャベルを肩に担いで緩やかな山道を足取り軽く登りながら、ムツが鼻歌交じりで言う。渡り鳥は渡りにいらないぞ、必要なのは船だ。というか願ったり叶ったりってお前、前もって許可は取ってなかったのか。門前払いを喰らったらどうするつもりだったんだ、ここまできて。
「あ、その時はその時で無許可でも入るつもりだったから」
「滅っ茶堂々と不法侵入じゃねぇか」
「やだなー、堂々となんて誰がするかよ。こっそりだよ、こっそり」
 その「こっそり」をこっそり言うことすらできないムツには、どの道こっそりなんて無理だからやめておいた方がいいと思う。
「だからちゃんと許可とって堂々真っ向、正面から登山してるじゃねぇか。ところで……どの辺りに埋めたんだっけ?」
 川沿いの道をしばらく歩いてつり橋を渡り、山道を登り出してから早二十分近くが経過しようとしている。何せ合宿の最終日、帰る間際になって埋めたタイムカプセルだ。行きと帰りに相当な時間がかかるほど遠くに埋めたはずはなく、そんな時間がかかるような場所に埋めることができたはずもない。はてさて、どの辺りだったかな。
「そんな時のために、じゃーん」
 おっちゃんが貸してくれた園芸用スコップとバケツを持っていたミキが立ち止まり、肩から下げていた鞄から何やら紙切れを取り出す。見た感じルーズリーフだ。
「ちゃんと俺達、場所忘れちゃった時のために地図、残してたんだよねー。用意周到じゃん? ただ問題があるとすれば、この地図をしまいこんだ場所すら忘れる可能性を想定してなかったってことかな」
 地図残したよねってメグに言われてから、探し当てるのに半日くらいかかっちゃったよ、とミキが肩をすくめながら差し出してきたそのルーズリーフには、俺達が歩いてきた道のりが記されている。ミキが読み上げていく埋めた場所への行き方と、目で追えるミミズののたくったような地図によると――川沿いを歩いて、つり橋渡って。山道を徒歩約二十分、少し開けた場所に出たら、
「って、ここじゃん!」
 ……。
 お願いですから、そういう低レベルなコントを仕掛けるのはやめてください。
「うーん、そう言われてみればここだったかも。でも、三年前に比べるとやっぱり色々変わっちゃってるね」
 きょろきょろと確認するように辺りを見回すメグに倣って見てみると、確かに景色だの広さだの地形だのが記憶の中の場所と一致する。ただ、これと似た場所なんてこの山の中には探せばいくらでもあるような気がするし、過去の俺達が地図を残したのは正解だったように思う。といっても、場所確認以外の何の役にも立たなかったけどな。
「じゃ、早速お宝発掘と行きますか! ……で、どの辺りに埋めたっけ?」
 一人やたらと元気よく、持っていたシャベルを天に向けて突き上げたムツに、ミキがため息をつく。
「やだなムツ、ここだって言ってるじゃん」
「阿呆。この開けた場所のどこに埋めたかって聞いてるんだよ」
「だから、ここっ」
 ここ?
 と、俺達はミキが指差した場所を見た。って、
「真下じゃねーか!」
「だっからー。さっきから言ってるだろ? ここだって」
 ……。
 もう結構です。ごちそうさまです。
「…………。掘るか」
 低レベル極まりないコントを繰り広げることになってしまったが、やがてムツがそう宣言し、練習Cチームメンバーによる一大発掘プロジェクトが始動した。ムツとメグ、俺が担いできたシャベルで土を掘り、掘り出した土をミキがスコップでバケツに入れていく。瞬く間にバケツは山の土でいっぱいになった。土が山盛り盛られたバケツをメグが持ってきた別の新しいバケツに代えて、尚も穴掘りは続く。
「…………どんだけ深くに埋めたんだよ、俺達」
 汗をだくだく流しながらムツが不愉快そうに呟いて、
「……知るか」
 それに俺が短く突っ込みを入れて。
 そんなやり取りを三回くらいしてからは、全員が黙々と作業を続けた。
 しばらくして。
「あれっ?」
 かつんっ、とメグが休みなく動かしていたシャベルの先端が、何か硬いものにぶつかった音を立てた。もうとっくにやる気をなくし離れたところでミキからもらったお茶を飲んで休憩していたムツが、その声と音に劇的に反応する。
「見つけたかっ! よっしゃあっ、メグナイスー! ……ミキ、スコップ貸せ!」
 さっきまでペットボトルのお茶片手に「あー」とかやる気なさげに座り込んでいたのは何だったのか、一発で元気になったムツはミキの手からスコップを奪い取ると、メグを押しのけてざくざくと土を掘り返し始めた。五十センチ近く掘られた穴に腕を突っ込んで、穴の脇に小山を作っていく。
「見つけたあぁぁあぁぁーっ!!」
 ムツの嬉しい悲鳴が上がったのはそれから十分後のことだ。
 その時の俺達? ああ、当然。やる気になったムツにもう全てを任せて、離れた木陰で座って休憩してたさ。

 * * *

 掘り出されたのは一斗缶だった。
 ……今時一斗缶を知っている高校生なんかいないかな。一斗缶というのは液体を入れるために作られた、簡単に言ってしまえばドラム缶の小さいバージョンみたいな金属製の容器である。当然液体を入れるための容器だから中に固体を入れられるようにはなっておらず、蓋といえばペットボトルみたいな口にキャップが一つついているだけだ。正直タイムカプセルに適した入れ物ではない。
 ところが俺達が掘り出した一斗缶は缶の上部一面が切り取られており、そこにゴミ袋だろうビニールがかぶっていた。多分中にモノを入れるために天井面を切り取ったんだろうな。となれば、中身を出すにはそのビニールをはがせばいいってことだ。
 が、かつての俺達は一体何を考えていたんだか、かぶせたビニールをガムテープで何重にも固定していた。がちがちに貼り付けられたそれをはがす作業は当然難航し、全てはがし終わった時にはムツがすっかりやる気をなくしていた。
「じゃ、いよいよ」
 と、はがしたテープの処理を終えたミキが言う。
「かつての僕らがタイムカプセルに入れた物品とご対面と行こうか」
 ビニール袋をはがした下では、更に中身がビニール袋に包まっていた。取り出して、ビニール紐でくくられていた口を開ける。そこからまた別の袋。
 ……マトリョーシカか、これは。
 って突っ込みを入れたくなるほど何重にもビニールに包まれていたタイムカプセルの中身は、それから更に五枚ほどビニールを剥いだところで、
「出てきた!」
 やっと俺達の前に姿を見せた――
「あ、説明書が入ってるよ。えっとね――」
 中身と一緒になって入っていたらしい一枚の紙切れ(これまたルーズリーフ)を開いてミキが内容を読み上げる。
 曰く――
 このタイムカプセルの中身には、二種類がある。
 一つは、一人一人が将来の自分に向けて残そうと決めたもの。個人の物品。
 もう一つは、四人全員で決めて残したもの。チーム共通の思い出の品。
 三年後、無事に発掘されたし。以上。
「……って、みんな聞いてる?」
 というような内容を最後まで聞いていた奴は、残念ながら誰一人としていなかった。何せ最後の三年後無事に以下略、の辺りでは、みんながみんな、各個人の物品に気を取られていたからな。
 ちなみに俺が入れていたのは、当時の俺が有り金をはたいて全巻揃えた文庫本(当然ラノベ)シリーズの最終巻だった。「苦労して買ったんだから大事に読もう」などと考えながら読んでいたシリーズで、しかし最終巻まではほとんど一日で読み上げてしまい、それではもったいないからと埋めることにしたんだっけな。……何てことしやがる、昔の俺。なくしたのかと間違えて、改めて最近買っちまったじゃねーかよ。
「はは、ユキらしいや」
 実は超恥ずかしい品が栞のようにそれの間に挟まっていたのだが、丁度メグが話し掛けてきたことだし、あえて触れないことにしよう。
「……メグは何、入れてたんだよ」
「僕? 大して面白いものじゃないよ」
 言ってメグが見せてくれたのは、飾りのついたヘアゴムと洒落たデザインの眼鏡ケース、どこぞのファミレスの割引券だった。俺の記憶が正しければ中一の頃、俺達がメグに贈った誕生日プレゼントだ。確かヘアゴムがミキで、眼鏡ケースが俺、ファミレスの割引券がムツ……何てことしやがる、昔のメグ。そんな恥ずかしい過去を入れるなよ。
「恥ずかしい過去かな? 僕にとってはいい思い出だけどね……でも、今の僕にはどれも役に立たないものになっちゃったな。ヘアゴムも眼鏡ケースも、今となっては用無しだからね、もう」
 確かにな。特にファミレスの割引券なんてとっくに期限切れてるだろ。ムツの馬鹿、一体何を考えてそんなもの誕生日に贈ったんだか。
「あー、これっ」
 誰も耳を貸さなくなった説明書をほっぽり出して袋の中をあさっていたミキが歓声を上げた。見ると、ミキの手の中にあるのはホイッスルと一冊のノートだ。
「昔使ってたホイッスルと、中一の時の練習記録! なくしたと思ったらこんなところに入れてたのか! うわはっ」
 ミキも俺と同レベルだな。ただ俺と違うのは、そうしてミキが入れていた物品が、他に代用がききそうもない思い出の品だったというところだ。銀色が少しくすんでいるホイッスルは中一の時ミキが使っていたもので、振り回したり叩きつけたり乱暴に扱っていたものだから傷も入っていて年季を感じさせるし、まして練習記録などミキの直筆である。どこにも売っていない、非売品だ。もしかしたらマニアには一万円くらいで売れるんじゃないか?
「すっげー、色々書いてあるー。几帳面だな、俺! ……六月十三日、今日の練習内容、メグが休みで練習にならないのでサボって円陣やってた。落とした人は罰ゲーム、脱衣。……はは、馬鹿だなー」
 ……。
 結局、それも俺達の恥ずかしい過去を炙り出す結果にしかならなかった。
「ムツは何を入れてたんだ?」
 少し離れたところで一人くすくすとやっているムツに声をかけてやると、ムツは睨めっこで笑うと負けよを実践している脳みその足りないガキのような顔を向けてきた。ついには見えない敵に負けて、げらげらと爆笑し始める。本当、お前は何を入れたんだ。
「……か」
「か?」
「乾パンっ……」
「……は?」
 乾パン?
「と、……週間少年ジャ●プっ……」
 ……。
「いやっ、メモがついてるんだけどさぁ……これがさ、またアホなんだよ! 『乾パンは非常食だけど、三年後でも食べられるか?』、『このタイムカプセルを埋める直前に買ったジャ●プ。連載、何と何と何が続いてる?』」
 言って、再び爆笑し始めるムツ。……何をやってるんだ、昔のムツ。お前の馬鹿さ加減を未来に残してどうするんだよ。
「じゃ、いよいよ――かな?」
 ムツの腹の中にいる笑い虫がようやく死滅したところで、ミキが言ってもう一つの袋を持ち上げた。最後の袋、俺達個人個人の物品が入っていた袋の中に入っていた、某スポーツ用品店の袋――
 それはもちろん、三年前の合宿最後の夜、ミキが差し出した袋。
 袋の中身は、これもまた、ミキがあの時取り出したのと同一を成す物品。
 中に入っていたのは――

 中に入っていたのは、撮り切った使い捨てカメラと、新品に限りなく近いバレーボールだった。

 ここで話は唐突に、例の回想シーンへと戻る。
「じゃあ、明日の練習はそれね。どっちもこの三日間の思い出として埋めるんだから、やっぱりそれなりのものにするよ! そのためにも明日は練習! 今の時点じゃ遊んだ思い出しかつまってないよ、これ――」
 言って、ミキが差し出したのが――これだった。使い捨てカメラと、いくらかずつお金を出し合って買ったバレーボール。カメラの方には、合宿中に取った写真が入っており残りわずか、バレーボールはそれまでの練習で使ってある。
 要は、合宿の思い出だ。
「カメラは、現像しないでこのまま入れるんだよな?」
「もし三年後、現像できなくなってたらどうするーっ?」
「まさか、フィルムが駄目になるとは思わないけどね。ただ……ボールは空気、抜けるかな」
「穴さえ開かなきゃ平気だろ、空気入れればいいだけだし。俺達が望むのはただ一つ!」
 ムツの一言を、今更ながらに、思い出す。

「このボールで、三年後もまた、俺達がバレーをプレーすること!」

 * * *

「このボールで、三年後もまた、俺達がバレーをプレーすること!」
 俺が思い出したまさにその一言を、ムツが声高らかに宣言した。
「どうだ、使えそうか?」
「っちゃー。駄目だね、予想はしてたけど、大分空気が減ってる」
 ムツに尋ねられ、圧を確かめるようにボールを手で叩きながら、ミキが言った。目に鮮やかな色で飾られたカラーボールには、マジックで一人一人のコメントが書かれている。その他にも、合宿中についた傷など、思い出が中の空気以上に詰まっている、それは――
 過去の俺達からの、贈り物。
 だが、それに込められた俺達の望みはどうにも叶えられそうにない。空気が抜けてるんじゃ無理だし、第一場所が――
「そうだ、」
 ミキが持つボールを見て、メグが言った。
「合宿所に戻ればいいよ! タイムカプセルの発掘、許可してもらえただろ? じゃあ、ボールに空気を入れるのもいけるんじゃないかな」
 ついでに――と、メグは言う。
「バレーコートも、貸してもらえるかも」

 俺達の三年越しの望みが、叶おうとしていた。

 * * *

 話の展開というのは恐ろしい、と俺は時々思う。合宿でも何度か走った道を合宿所へと駆け戻り、駄目元で声をかけたにも関わらず、やはり人がいい管理人のおっちゃんは空気入れの使用を笑顔で許可、バレーコートまで貸してくれた。どうして事ってのは、上手く運ぶ時にはこうも上手く運ぶんだろうな。
「どうする?」
 空気が入って硬さを取り戻したボールのさわり具合を確かめながら、メグが言った。
 午後の太陽が西から照らし出す中。
 それは、懐かしすぎる光景だ。
「そんなに懐かしいかぁ? 懐かしがるところなんて一つもないけどな」
 そりゃあムツ、お前にはそうだろうよ。昨日まで合宿だったというなら尚更だ。だけど、俺にとっては懐かしすぎてどうにかなりそうな光景なんだよ。
「そっか……ユキはもう、三年ぶり近くになるんだもんね」
 感慨深そうに、ミキが言ってくる。
 三年――か。
「……長かったな」
「そうか? 俺は、短かったけどな」
 長かったさ。とてつもなくな。
 何せ俺も――この三年間で色んなことがあったから。
「じゃあ、久々になるユキにルールを決めてもらおうか?」
「……おっけー」
 メグに言われて今日を限りのルールを考えながら、俺は残った脳細胞で考える。
 行きの電車の中で、俺はこの三人について、大分変わっちまったなぁなんて思ったりしたが――三年前までと変わらず楽しげに話している三人が、けれど知らない奴等みたいで、変わってないようで、変わっていて、何故だかずっと遠くにいる人間のように感じたりしてしまったが。
 それが寂しかったが。
 けれどじゃあ、三人に全く変わって欲しくないなんて――
 それは俺の我儘だ。
 エゴの塊。
 一緒に過ごさなかった三年分、変わってしまったこいつ等とまるで同じように、こいつ等にとって俺もまた、一緒に過ごさなかった三年分、大きく変わって見えているはずだ。変われない人間は、いない。
 そう、変われない人間はいない。
 きっとこの三年を、こいつ等とずっと一緒に過ごしてきたところで、俺達は全員が全員、変わっている。それは避けられないことだ。ただ、その変わり具合が、一緒にいたかいなかったかによって、大きく見えるか見えないかだけの違い。
 多分俺達は、一緒にいても、変わっていた。そうして変わった違いが、空白の時間を隔てたことで、大きく見えているだけの話なんだ。
 変わってしまうのは、当然のこと。
 自分が変わってしまっているのに、相手には変わって欲しくないなんて――そんなのは、醜いエゴでしかない。
「二人チーム、一セット、二十五点マッチ。……どちらかのチームが十五点を先取した時点で、コートチェンジ」
 俺が告げたルールの下で、俺達の三年越しの望みが、実現する。
 ネットを挟んで、メグとミキ、ムツと俺。
 サービス権を得て久々に触るボールは変な感じだったが、一度フローターサービスをネットの向こうに打ち込んだら、すぐに感覚は戻ってきた。メグのレシーブ。ミキがトス。勢いのあるアタックをメグが打ち込んでくる。なるほど、確かにメグの奴、レギュラーに選ばれただけはあるな。
「ユキっ!」
 久しぶりに受けたメグのアタックは痛かったが、それもレシーブ成功が認識できた瞬間には全て吹っ飛んだ。上がったボールを、ムツがトスする。ミキが言ってた通り、相変わらずムツはトスのタイミングが変だな。
 でも、それがまた――懐かしい。
「ナイスッ! ――」
 踏み切ってタイミングよく打ち込み、ムツの声援を聞いた時には、俺が打ち込んだアタックは丁度ミキが腕を伸ばした更に先のところに決まっていた。一点。
「うははっ……やっぱりユキは上手いなぁ」
 無様にコートに転がることになったミキが、仰向けに身を返して笑う。ミキも上手くなってるさ。俺のアタックが狙った通りに決まってたら、あのレシーブで絶対返されてたね。流石、先輩達にレシーブのお墨付きをもらっただけある。それに対してこっちは――やっぱり三年のブランクがきついな。狙ったところに落ちなくて一瞬あせったっつーの。
「いや、狙ったところ外れたなんて嘘だね! 流石、元エースアタッカー……もしかしたらユキ、あのまま転校しないでいたら今頃僕と一緒に全国大会じゃないか?」
「……メグよ、それはレギュラーになれなかった俺に対する嫌味か……そうなのか……」
「ムツはどっちにしろ無理だよー。あのトスのタイミングでちゃんとしたアタック打てるのなんて、それこそメグとユキくらいだってばさ」
「るせーぞ、お前等!」
 調子に乗った俺は、メグが転がしてきたボールをコートに叩きつけて声を張り上げた。
「仮にもお互い、バレーやってる、やってた身だろうが。だったら……勝負が全て! 上手いだのそうじゃないだの――言葉はいらないはずだ」
 サービスラインに立って。
 打ち込むのは、渾身の変化球サービス。

「全力でやろうぜ。手加減なしで」

 結局。
 一定の時間を置いて、その間に人間として変わっても変わらなくても、それは大したことではないんだろう。確かに俺達のつながりにおいて多少の意味はあるだろうが、でも、そこまで大騒ぎするものではない気が、今はする。
 確かに、みんな変わった。メグはイメチェン成功してるし、ミキは一層美人になったし、ムツは――一見変わってないように見えたが、やっぱりそのイケメン的面構えに磨きがかかっていて。見た目だけじゃない、その中身が、やっぱり三年分、変化している。
 それは、髪を伸ばした俺も同じこと。
 三年前の俺と今の俺じゃ、経験値は三倍以上も違うさ。変わったか変わらなかったかと聞かれたら、絶対に変わっているはず。
 でも、そうして外も中も変わっても、それは世界がひっくり返るほどに大した問題では、全然ないのだ。
 問題は別にある――
「ユキ、Bクイック!」
「了解っ――」
 そう。
 例え三年前に比べて変わってしまっていても。
 外見も、性格も、思考も、感情も、能力も、記憶も。
 何もかも。
 全てが変わってしまったのだとしても。
 俺達は今、バレーボールをしている。
 三年前と変わらず、四人そろって、バレーをしている――

 笑い合っている内容は三年前と変わっても。
 笑い合っているという事実は、三年前と何も変わらない。

 * * *

 ここから先は後日談になる。
 あのバレーの試合の後――ちなみに結果は二十八対二十六でメグ・ミキの勝ちだった。次があるなら絶対に勝ってやりたいと思う――管理人のおっちゃんにお礼と別れを告げて帰路についた俺達は、電車の中で座れたことをいいことに、疲れに任せて爆睡した。さぞかし異様な光景だったろうと思う。男四人組(内二人は超美人と超イケメン)がお互いに肩を貸し合ってヨダレ食って寝ているっていうのはさ。
 当然、寝ている間に話すことなんてできないから会話もなく、町田駅近くで起きてから少し思い出話をしたのを関の山に、夜八時を回った町田駅で俺はムツ・メグと別れ、ミキとは相模大野駅で別れた。そうしてミキと別れた後の電車内でも爆睡の俺が、うっかり降りそびれて湘南台駅まで行ってしまい引き返してきたのは、三人には秘密だ。
 そうしてやっとたどり着いた自宅で、俺は荷物も崩さないままふらふらとベッドに倒れこみ――それから、死んだように眠った。
 その間やたらと楽しい夢を見た気がするが、三人には言わないでおこうと思う。あえて話すことでもないだろうからな。

 で、今。
 この小説を書き上げようとしている俺のそばには、俺に対して宛名書きがなされた封筒が一つ、置かれている。差出人はミキだ。中身は、先に届いたミキからのメールによると、例の使い捨てカメラの中身らしい。まだ開封していないが、何が写っているのか楽しみだ。
 そう。
 この封筒の中には、あの日の俺達がいる訳で。
 写真には、変わりようのない事実が、写っている。
「……昔の友達っていうのは、いいもんさ」
 今まで書いた小説の文章を読み返しながら、声に出して、そう気取ったことを呟いてみた。気取ってはいるけれど、偽りようのない俺の本音さ。久々に会う昔の友達は、誰が何と言おうとやっぱりいい。
 色々寂しい思いをしたりは、するけれど。
 逆に、新しい喜びに、出会える。

 変化とは時に喜びであり。
 変化とは時に悲しみである。

 どっちもあって、そのどちらにも出会えるから、そこがいいなぁ――なんて。
 だから、もう奴等ともしばらくは会わないだろうけど。
 会わないだろうから、また次、何年か後に会うのが楽しみだ。

「奴等が、どんな風に変わっているか――ね」

 そうそう、久々に会ったといえば。
 久々にお目にかかった某ライトノベルの最終巻、それに挟まっていたとあるモノの正体を、まだ明かしていなかったな。折角だから、暴露しておこう。
 それは、ミキから届けられた物品と同じ、一枚のフォトグラフ。
 日付は四年前の夏。
 ミキとメグとムツと、それから俺が、並んで写っている。
 俺が知る限り、四人がそろって写っている最初の写真さ。

 それをタイムカプセルに入れていた、なんて――

 恥ずかしくて、到底、言えないけれど。



[後編 了]
[タイムカプセル 了]
[読了感謝]
15:23  |  小説・キリ番  |  TB(0)  |  CM(1)  |  EDIT  |  Top↑

後編の方も読了しました。爆傷です。

率直に、面白かったです、という感想しかないです。
が、やっぱり女の子向けですか、野郎が集まって『服を脱ぐ』流れには、残念ながらなりえないと思います。つか、体育会系の合宿を暖かい時期にやったんだったら、室内ならすでに半裸状態だと思いますし。

ともあれ、よかったです。
どうもありがとうございました。
爆傷 |  2009年07月17日(金) 17:29 | URL 【コメント編集】

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